久しぶりのブログ更新になってしまいました!

最近、「免疫を上げるツボってあるの?」「三里にお灸しておけば、マア大丈夫でしょうよ」なんてお話を冗談まじりにすることがあります。

【昔から、免疫つけるには「足三里」】

これは有名な話ですが、松尾芭蕉の「奥の細道」の始まりに、「・・・ももひきの破れをつづり、笹の緒付け替えて、三里に灸するより・・・」というのがあります。これから長旅に旅立つ芭蕉翁が、ももひきを膝上までめくりあげ、身をかがめて灸をすえているこじんまりとした姿が想像できます。 (「三里」というのは、膝の下にある)

この三里はツボの中でも最も有名で、胃腸の働きを改善し、自律神経系を調整し、免疫系を高めるツボとされ、滋養や病気予防でも多用します。江戸時代に、自律神経や免疫うんぬんでもないですが、ここに灸すれば腹調子が安定し、長い旅路にも体力が持つと重宝されていたんですね。

また、その名の通り、「このツボで三里の道を走る」として、飛脚がこのツボを多用し、激しくついた灸跡を隠すため、脚絆で覆いをしていたなどとも言われています。

【鍼灸すると、免疫機構が出動!】

免疫力高そうだな・・人間以外の動物は。

現在の研究においては、三里に鍼すると、心拍数の減少、また腎の交感神経活動の抑制による血圧の下降も認められています。

また、お灸でも、施術部の直下の皮膚・血管の変化には、代謝の促進、マスト細胞(炎症や免疫などの生体防御に重要)の活性化などの現象が認められています。

灸をした直後と、その5日後に再び、※好中球と、※マクロファージが活性化し、その異物を消化しようと、※ライソゾーム酵素活性の亢進もみられます。

※好中球・・・白血球の一種。生体に侵入した細菌・真菌を飲み込んで殺菌する。  

 ※マクロファージ・・・白血球の一種。死んだ細胞や侵入した異物を消化し、清掃する。 

 ※ライソゾーム酵素・・・細胞内で不要化したタンパク質、脂肪、糖を破壊する。

簡単にいいますと、人為的に鍼は体内に異物を混入し、灸は皮膚に小さな火傷を施すわけですから、白血球をはじめとする免疫機構たちがナンダナンダ、ドウシタドウシタ!とその傷跡の修復と周辺の病的産物の排除をしようとして、さかんに集まってきて活動をはじめます。

例えば、良性腫瘍などの手術で、取り切れなかった部分はわざと貪食細胞が食べやすいようにメスで散らして閉じると聞いたことがありますが、鍼灸も血や気が滞ったことによって、邪(病的産物)がたまった状態、そのせいで活発に動けなくなっている免疫機構、そしてまた邪がたまる・・・この悪循環に対し、鍼灸の刺激により免疫機構を賦活化させて快方に導きます。

薬などは、それ自体に症状を抑える作用をもっていますが、鍼はただの細い金属一本です。ですから鍼が治すのではなく、治すのは体内の免疫機構です。

【鍼灸の刺激はちょっと特殊です】

毎日お日様あびること、夜は小食、楽しい運動、ゆっくり睡眠、ストレス?何もなし!
いやはや。

鍼や灸の刺激に対する生体反応は、特殊な反射です。通常の反射は末端の皮膚に刺激を与えると、いくつもの神経を介して脳脊髄へ行き、指令を与えられてまた末端へ戻り、様々な反応を示す・・という流れですが、鍼灸の刺激の場合は、直接脳脊髄にいく反射と、脳脊髄に行かずに(脳脊髄の命令を待たずに)Uターンして末端へ戻り、そこで反応する、というものです。この反応は主に筋肉の血管に作用し、拡張して血流を促します。これにより、神経や筋組織などに栄養が送られます。

この反射を「軸索反射」といいますが、この軸索反射に影響しているのが、皮膚に存在している感覚を受ける受容器である「ポリモーダル受容器」というものです。感覚受容器の種類は他にも様々ありますが、鍼灸刺激を受けるのは主にこの「ポリモーダル受容器」で、これがまた鍼灸の刺激を体内に反応させるのに大きな効果がもたらすとされています。この受容器が脳内の鎮痛機構を刺激し、鎮痛ホルモンを分泌させたり、自律神経を活性化して内臓器官のバランスを調整するというのが大きな特徴でもあります。

自律神経を活性化させるということは、結果的に内分泌系(神経と同じようにホルモンを介して生体機能を調節する。主に神経系は迅速な調節、内分泌系は緩慢で長期的な調節に関わる)と、免疫系にも反応を起こします。この「神経系」「内分泌系」「免疫系」は3兄弟のようなもので、それぞれ神経ペプチド(神経が分泌するホルモン)、他ホルモン、サイトカイン(細胞から分泌されるたんぱく質)によって、互いに連携し包括的な反応を形成しています。

ですから、鍼を続けていると、「風邪をひかなくなった」、「耳鳴り・頭痛がなくなった」、「血圧や血糖値が安定した」といったようなことは、本当によく聞かれる話です。

【余談なのです】

緑の角でなく鍼です。動物の免疫に対する行動には本当に学ばされます。具合の悪い時には一切、食べず、回復するまで引きこもり、自分に近寄らせません。

余談ですが、阿刀田高さんの本を読んでいて。「女性のくどき方ならば聖書の詩篇(雅歌だったかも)を読め」といったくだりがありましたが、それならば、感動で心を癒したいならば、生理学の教科書中の「生体の防御機構」を読め!です。

病原微生物などが体内に侵入した場合、どんなメカニズムで生体の防御機構が働くのかを説明した章なのです。学生時代、ちょうど「神経」の章を何とか終わらせたところで、ニューロンやらワーラー変性やら、シナプスの可逆性なんたらがまだグルグル頭中を支配しているところに、「免疫か・・また何やら面倒くさそうな単語並んでますなあ・・」となかなか食指が動かない分野だったものの、読み始めたらグイグイとひきつけられるこれがまた。

自分の中にある細胞組織全てが私の身体を守るために一斉動員して異物に立ち向かう・・それこそインデペンデンス・デイではないけれど、細胞たち一致団結奮闘し見事な連携プレイ、途中で倒れる細胞Aあり、Aを引き継ぐ涙のB・Cたち、そして迎えるラストの異物排除の感動的シーンは、「うおー!!みんなー!やったー!!」と叫んだか泣いたか。大げさでなく。こんなことが、日常的に体内でおこっているのだなあ・・・この種の感動は、なかなか小説や映画では味わえません。

とにかく「泣(感動)!私の身体よありがとう!お礼においしいもの沢山食べます!→また太って免疫落ちます」なのです。

最後に、たまに思い出されますのは・・・昔。胃腸が弱くよく湿疹が出ていた私に鍼してくれた父が、「この鍼一本、ツボ一か所だけで、身体がちゃんと治してくれるからね、自分でも、この鍼を刺した瞬間に治る、自分の身体が治そうと頑張ってくれると、ちゃんと想像するんだよ」と言っていたことです。

こういった、一見笑っちゃうようなことでも、真剣にイメージしてするのは、自分の免疫細胞を目覚めさせ、賦活を促すのに、とてもいいことだなあとしみじみ懐かしく思い返します。